*大仕事になりました「タンノイのレストア」
2018年8月:修理編
オーディオマニアの友人からタンノイのスピーカーを譲り受けたのが2010年。以来、途中でサランネットを貼り換えたくらいでそのまま使い続けていましたが、最近音がかすれるようになりました。本体には中高域の調整をする三つのロータリースイッチがあるのですが、カチャカチャ回すと音が出たりしますので接点の接触不良のようです。接触不良なら接点を磨いてやれば簡単に直るでしょう。
ほかにも片方のスピーカーのダクトの内側に貼られている黒い紙がはがれているので貼り直しと、バッフルの下端が水分で膨らんでいるのも修正したいと思います。
まずはロータリースイッチを取り出さなければいけません。
スピーカーを引き出して裏蓋を外そうとしたのですがネジがありません。はめ込みになっているようですので、スピーカーユニットを取り外すことにしました。その穴からロータリースイッチにアクセスができます。取り出してみると、ロータリースイッチはネットワーク基板に直付けされています。ロータリースイッチのベークライトも劣化しているので、半田吸い取り器を使って慎重に基板から外して分解してみます。やはり接点が黒く酸化していますね。パーツクリーナーを使って接点を洗浄し、軽くサンドペーパーをかけて組み立て直しました。これで大丈夫でしょう。もとのようにネットワークを組み立てます。
これが修理するスピーカーです。 |
スイッチの不良とダクトの剥がれ、浮きです。 |
スピーカーユニットを外してアクセスします。 |
同軸ユニットのコーンは補強付きです。 |
ネットワーク基板が出てきました。 |
これが問題のロータリースイッチです。 |
この3か所の半田でロータリースイッチが固定されています。 |
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邪魔なアルミのパネルを外します。 |
半田を溶かして吸い取ります。 |
やはり接点が酸化して黒くなっています。 |
接点を磨いてあたりも調整しました。 |
もとのようにネットワークを組み立てて修理完了です。 |
これで修理完了です。またいい音が楽しめそうです。
2018年8月:レストア編
ロータリースイッチの接触不良を直すためにスピーカーユニットとフロントパネルを外しました。ここまでやったならいっそのことエンクロージャーにも手を付けましょうか。というのはこのエンクロージャー、側面の表皮が浮き上がっていたり剥がれたりしているのです。表皮がはがれているところはパテで補修できますがそうするとニスを塗っても補修跡が見えてしまいます。ですから全体をラッカーで塗装することになります。ちょっと大仕事になりますが、前からやりたかったことなので、一気にやってしまいましょう。
まず最初は音質調整のパネルです。スピーカーの構造とか特性の変化のグラフなど書いてあるのですが、色が薄くてほとんど読めません。そこでパネルをコンパウンドで磨いてみました。そうしたら今まで読めなかった文字が浮き出てきたではありませんか。乾燥させて艶消しのクリア塗装をして保護しましょう。
さて、いよいよエンクロージャーです。まずは欠けている部分に木工パテを塗り込んで成形します。この木工パテは一日乾燥させると、木材同様にサンドペーパーやナイフなどで削ることができます。
このエンクロージャーの側面や上面の板は無垢材ではありません。MDFとかパーティクルボードという、木材の粉を樹脂で固めた板を芯材として表面に化粧用の厚さ1ミリくらいの薄い板を貼り付けてあります。その表面の板が水分によって膨らんでしまったところがあります。これはどうしたらいいでしょうか?押せばへこみますから中は空洞なようです。かといって注射器で接着剤を注入するのも難しいでしょうね・・・・ふと、「曲げわっぱ」から思いついてアイロンでスチームをかけてからギュッと押し付けてみました。冷えるとちゃんと平らになっています。やりましたね。
これが音質調整パネルですが読めません。 |
磨いたらスピーカーの絵が浮き出てきました。 |
TANNOYの文字がかすかに見えます。 |
文字とグラフが出てきました。 |
こんなにきれいに文字が出てきましたので、クリアラッカーを塗って表面を保護します。 |
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側板の表面がはがれたところを木工パテで埋めます。 |
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数か所ぷっくりと膨らんでいます。 |
スチームアイロンで平らになりました。 |
ここもパテで修正しました。 |
バッフルの下端の隙間にもパテを詰めます。 |
乾燥したらカンナで平らに削ります。 |
角がつぶれているところは結構あります。 |
こげ茶色のラッカースプレーで塗装します。 |
塗っては乾かしを3回繰り返します。 |
パネルも再度艶消しクリアを塗り直します。 |
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塗り終わってパーツを取り付けました。 |
これが塗装作業前の状態です。 |
サランネットを取り付けて完了です。 |
こちらは作業前、パネル文字が違いますね。 |
2018年9月:エッジ交換編
スピーカーを組み上げてさあ、またいい音を楽しもうと思っていた矢先、まずいものを発見しました。それは・・・・エッジのひび割れです。そうっとピンセットで押してみると、ポロリとかけらが落ちました。あちゃあ~ウレタンだあ!
30年くらい前、スピーカーのエッジ材としてほとんどのスピーカーで使われたのがウレタンです。軽くて成形しやすく、適度の損失もあるからでしょう。ところが問題が発見されたのは10年くらい後になってからでした。空気中の水分のせいだと言われていますが、ボロボロに崩れてしまうのです。経年変化ですから、交換してもまた10年経つとボロボロになります。そこで昔、エッジに使われたシカ皮が脚光を浴びるようになりました。伸び縮みして空気も遮断しますし、エッジとして優秀な素材なのです。
私自身、JBLの38センチウーファーから10センチのモニタースピーカーまでこれまでに4セットのエッジ交換をしてきました。仕方ない、久しぶりにシカ皮貼るか、とインターネットでエッジ部材を探していたら、北海道札幌で各種エッジを成形したものを売っている会社がありました。ファンテックという会社です。ここでタンノイ用の38センチのエッジを売っているではありませんか。しかもゴム製で、ちゃんとタンノイのコーンに合わせて作られています。ちょっとお値段は高めですが、モノは良さそうです、これを買いましょう。
ということで、すぐにファンテックからエッジが到着しました。
では手順書に従ってエッジ交換をやりましょう。タンノイはダンパーが接着ではなく4個のナットと金属リングで固定されているので、エッジを切るとコーンをそっくり取り出すことができます。これは作業性がいいですね。
これがタンノイのカーブに合わせて成形されたエッジ。劣化がないゴム製です。 |
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最初にツィーターのダイヤフラムを外して点検します。 |
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崩れ始めたエッジがわかります。 |
エッジを押さえているスポンジをはがします。 |
エッジをスクレーパーではがします。 |
ダンパーを固定しているナットです。 |
コネクターのピンをつまんでボイスコイルの線を押し出します。 |
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コーン紙に残ったエッジを取り去ります。べたべたしてこれが一番大変な作業です。 |
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エッジ端に付いている接着剤を切り取ります。 |
コーン紙の上に残ったエッジを落とします。 |
フレームの上に残った接着剤を削り落とします。 |
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コーン紙に付属のボンドを塗ります。 |
リブに押し込むようにエッジを貼り付けます。 |
洗濯ばさみでコーン紙とエッジを密着させます。境目にもボンドを流し入れます。 |
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表からもボンドを塗ります。エッジをフレームに貼り付けてセンターを出したら完了です。 |
エッジを接着するのは、木工ボンドのような白い酢酸エマルジョン系のボンドです。これでゴムも接着できるのですね。液体では白いですが、乾燥すると透明になります。乾燥までに時間がかかりますが、貼り付けてからもセンター出しで少し動かせるところもやりやすくていいですね。
タンノイスピーカーのレストア、これですべて完了です。
これでまたしばらくいい音で鳴ってくれるでしょう。
TANNOY Classic Monitor
¥495,000(1台、1980年後半価格改定)
方式 | 2ウェイ・1スピーカー・バスレフ方式・フロア型 |
使用ユニット | 全帯域用:15inch(38cm)同軸型(K3838) |
周波数特性 | 40Hz~20kHz ±4dB |
公称インピーダンス | 8Ω(5.5Ω最小) |
クロスオーバー周波数 | 1kHz(12dB/oct) |
コントロールネットワーク | 1.5kHz~4kHz(-1.5dB~+3.0dB、4ポジション) 3kHz~20kHz(-3.0dB~+3.0dB、5ポジション) 5kHz~20kHz(-3.0dB/oct~+1.5dB/oct、4ポジション) |
許容入力 | 50Hz~1kHz: 120W(連続) 500W(ピーク) 1kHz~20kHz: 60W(連続) 250W(ピーク) |
出力音圧レベル | 92dB/W/m(40Hz~20kHz) 112dB/120W/m(40Hz~20kHz) 119dB/500W/m(ピーク) |
第三高調波歪率 | 0.5%以下(90dB SPL、40Hz~20kHz) 2.0%以下(110dB SPL、80Hz~20kHz) 3.0%以下(112dB SPL、80Hz~15kHz) |
内容積 | 230L |
外形寸法 | 幅722x高さ1095x奥行436mm |
重量 | 65kg |